遺伝子診断には倫理問題という大きな壁があります。例えば、受精卵診断では男女産み分けが可能となってしまい、人の尊厳を冒すことになると言われています。また、体質が疾患にかかりやすい(ガン・心臓病など)と診断された場合の遺伝子差別もあります。

遺伝子治療先進国のアメリカでは遺伝子差別に対する法整備が行われました。保険の加入や会社の社員登用などの際に遺伝情報を考慮に入れてはいけないというものです。なぜなら、すでに発症しているものは保険等に不利ですが、まだ発症しておらず、体質的にかかりやすいと診断された場合あるいは疾患に関係する遺伝子を持っていた場合に差別をするのは不当だとしたからです。こうした法整備は遺伝子診断が一般化してくると必要となってきます。

遺伝子診断の問題は脳死に似ています。つまり、原因遺伝子を持っていることで病気としてしまうのか、あるいは発症した段階で病気とするのかという問題です。原因遺伝子は親から受け継ぎます。この原因遺伝子を持っていることが個人のせいなのかどうかという問題も生じます。

イギリスではハンチントン病に対する保険会社の遺伝子診断の利用を認めています。ハンチントン病は100%発症し死亡するという遺伝病です。つまり原因遺伝子を持っているすなわち死です。こうした治療法のない死亡率の極めて高い病気に対する遺伝子診断は必要かどうかということも今後大きく扱われるでしょう。例えば発症は10年先だというのに、死亡宣告を今突きつけられるようなものです。これら倫理問題に対してどう対応していくかが、今後の遺伝子診断の課題であるといえるでしょう。